パスワードをお忘れの方は
スマートフォンのアプリは、私たちの生活を便利にするために作られている。 少なくとも、作った人はそう言っている。
まず、パスワードの話をしよう。 半年ぶりに使うアプリを開くと、必ずログイン画面が出る。 私は自信を持って、いつものパスワードを入れる。 違う。 もう一つのほうを入れる。 これも違う。 結局、「パスワードをお忘れの方はこちら」を押す。 そして新しいパスワードを作るとき、画面には「前と同じものは使えません」と出る。 その前のものが何だったのか、私は今まさに、知らないのである。
次はアップデートだ。 昨日まで画面の右下にあったボタンが、今日は左上にある。 色は明るくなった。 字もきれいになった。 ただ、私が毎日押していたボタンだけが、どこにもない。
困ったので、サポートに連絡することにした。 ところが、問い合わせのページに行くには、まず会員登録が必要だった。 会員になるには、パスワードがいる。 話は最初に戻った。
仕方がないので、アプリのレビュー欄を開いた。 同じことを書いているコメントが、三百件あった。 星は一つ。 文章はどれも短くて、怒っていて、そして少し面白かった。 私は下まで読んで、なぜか安心した。
結局、私はそのアプリを一度消して、もう一度ダウンロードした。 ボタンは戻らなかった。 でも、パスワードだけは、なぜか思い出せた。
