聞こえますか
午前十時。 田中さんはパソコンの前に座って、会議の画面を開いた。 佐藤さんの顔は映っている。 口も動いている。 でも、声が全く聞こえない。
「佐藤さん、聞こえますか」と田中さんは言った。
返事はない。 そのうち、佐藤さんの顔が画面の中で止まってしまった。
田中さんはチャットに「音声が聞こえません」と書いた。
すぐに返事が来た。 「こちらは聞こえています。田中さんのマイクの問題ではありませんか」
自分のせいかもしれない。 田中さんは不安になって、直し方を検索した。 マイクを何度も切ったり入れたりしてみたが、何も変わらない。
チャットに、もう一つ届いた。 「一度会議から出て、入り直してみてください」
その通りにすると、今度は画面が真っ暗になって、佐藤さんの顔も消えた。
十分後、机の上の電話が鳴った。 佐藤さんからだった。
「田中さん、すみません。私の方でした」と佐藤さんが言った。 「イヤホンが、後ろのテレビにつながっていたみたいで」
「テレビに、ですか」
「はい。非常にお恥ずかしいです」
二人が笑っていると、急に画面が元に戻った。 佐藤さんの声が、今度ははっきり聞こえた。
「あ、つながりましたね。じゃあ、会議を始めましょうか」と佐藤さんが言った。
田中さんは時計を見た。 十時五十八分。 会議が終わる時間だった。
「佐藤さん」と田中さんは言った。 「来週は、電話にしませんか」
