黄色い旗のうしろ
福岡からの便が仁川に着いたのは、予定より四十分遅れた十一時五十分だった。 遅れたのはその便だけで、次の便の出発時刻はずれていない。 十三時五分発。 搭乗が終わるのは十二時四十五分。 立花は腕時計を見て、まだたっぷりある、と思った。
立花の頭の中には、この建物のイメージがあった。 長い廊下が一本あって、その先にゲートが並んでいる。 実際は、そうではなかった。 乗り継ぎの客はまず上の階へ上がり、もう一度検査を受け、それから電車で別のターミナルへ移ることになっている。
案内表示はあらゆる場所にあって、どれも正しかった。 日本語と英語と韓国語で、同じことが書いてある。 乗り継ぎ、と書かれた下に矢印。 その下に、徒歩十二分。 立花は歩いた。 十二分だった。 表示は、一度もうそをつかなかった。
電車の乗り場で、立花の前に団体のグループが並んだ。 黄色い旗を持ったガイドが、後ろを向いて人数を数えている。 およそ三十人。 電車は二駅先まで行くと放送が言っていた。
一つ目の駅で、旗が動いた。 グループが全員降りた。 立花も降りた。
エスカレーターを下りたところで、立花は足を止めた。 目の前のゲートの番号が、百二十四番、百二十五番と続いている。 立花の搭乗券にあるのは、二百三十一番だった。 表示を探すと、二百番台はもう一つ先の駅だと出ている。 これも正しかった。
次の電車まで、三分半。 旗のうしろで使った時間は、全部で九分だった。
とりあえず走るしかない。 紙袋を左の腕にかかえこんで、立花は電車に乗り、二駅目で一番に降りた。 動く歩道の上を、止まっている人の横をすり抜けて走る。 コーヒースタンドのにおいがして、すぐ消えた。 さすがに四十代の体では、息が続かない。 それでもどうにか、番号が二百番台に変わった。
二百三十一番ゲートに着いたのは、十二時四十一分。 タイミングとしては、悪くない。
搭乗の列には、まだ二十人ほど並んでいた。 立花はいちばん後ろについて、ポケットから搭乗券を出した。 前から二十一番目だった。
