春に完成する船
中村:ごめんください。船を作っていただきたいんですが。
隆:はい、どうぞ。中村さんですか。
中村:ええ。隣に住んでいる人に紹介してもらって来ました。
隆:聞いています。どうぞ、こちらへ。
中村:小さいのでいいんです。一人で沖に出て、釣った魚を運ぶだけですから。
隆:三人ぐらい乗れれば十分ですか。
中村:ええ、それで十分です。
隆:長さは五メートルほどですね。それなら、今ある木で足りるはずです。
(隆は紙に数字を書いて、中村さんに渡した)
中村:うーん、思ったより高いですねえ。
隆:プラスチックの船なら、半分の値段で買えます。ただ、木の船は直しながら三十年使えますよ。長く使えば、こちらのほうが安いはずです。
中村:三十年ですか。私はもう六十二ですよ。
隆:それでも役に立ちます。息子さんがいらっしゃれば、次の人が使えますから。
中村:……いますよ、一人。今は東京にいますけどね。
(隆は少し笑った)
隆:うちも同じです。私も去年まで東京にいました。
中村:へえ。帰って来たんですか。
隆:ええ。父の作った船を見て、やっぱりこれだと思いました。
中村:……そうですか。じゃあ、お願いします。完成はいつごろの予定ですか。
隆:木を乾かしておかなければならないので、来年の春になります。二月に一度、見に来てください。形はできているはずです。
中村:春ですか。ちょうど魚のいい季節ですね。楽しみにしておきます。
